
第1章 不登校の時間は「止まっている」ように見える
不登校の子どもと向き合う中で、多くの親が最初に抱く感覚は「時間が止まってしまった」というものです。
朝になっても学校へ行く準備をするわけでもなく、夕方になっても今日の出来事を話すわけでもない。
一日が静かに終わり、昨日とまったく同じ今日がまた繰り返される。
周囲の同年代の子どもたちは、当たり前のように学校へ通い、学年が上がり、将来の話をし始めています。
その流れの中で、自分の子どもだけが取り残されているように見えると、親は強い焦りを感じます。
しかし、この「止まっているように見える時間」は、実際には完全に止まっているわけではありません。
それまで無理をして適応し続けてきた心と体が、ようやくブレーキを踏み、これ以上壊れないように守りに入っている時間なのです。
外から見える動きがなくなるほど、内側では調整が行われています。
それは非常に静かで、目に見えず、本人ですら自覚しづらいものです。
だからこそ、周囲からは「何もしていない」「何も変わっていない」と見えてしまいます。
不登校の時間を「遅れている時間」と捉えるか、「回復のための時間」と捉えるかで、家庭の空気は大きく変わります。
この最初の認識の違いが、その後の親子関係や回復のスピードにまで影響していきます。
第2章 親が最も不安になる「何も起きない期間」
不登校が始まってしばらくすると、多くの家庭で訪れるのが「何も起きない期間」です。
学校復帰の兆しもなければ、はっきりと悪化している様子もない。
ただ静かな日々が続いていきます。
この期間は、親にとって精神的な負担が最も大きい時期です。
「このままずっと家にいるのではないか」
「将来に取り返しがつかなくなるのではないか」
そんな思考が、何度も頭の中を巡ります。
人は「悪い変化」よりも「変化がないこと」に強い不安を覚えます。
改善しているなら安心でき、悪化しているなら対策を考えられます。
しかし、何も起きない状態は判断材料がなく、不安だけが膨らんでいきます。
この不安が強くなると、親は無意識のうちに「何か動かさなければ」という気持ちに駆られます。
声かけを増やしたり、情報を集めたり、将来の話を持ち出したりすることもあります。
ですが、皮肉なことに、この「何とかしよう」という動きが、子どもにとっては圧力として伝わってしまうことがあります。
結果として、家庭の中に緊張が生まれ、さらに動きにくくなってしまうのです。
第3章 子どもの内側では何が起きているのか
不登校の子どもの内側では、外からは想像しづらいほど多くのことが起きています。
ただ何も考えていないわけでも、将来を投げ出しているわけでもありません。
多くの場合、長期間にわたって「頑張らなければならない状態」が続いた結果、心のエネルギーが底をついています。
人に気を遣い、評価を気にし、期待に応えようとし続けた疲労が、一気に表面化するのです。
この段階では、感情の振れ幅が小さくなります。
楽しいことにも大きく反応できず、悲しいことにも涙が出ない。
それは無感情なのではなく、これ以上揺れないように心が自分を守っている状態です。
親からの「大丈夫?」「どうするつもり?」という問いかけすら、子どもにとっては大きな刺激になることがあります。
答えられない自分を責めてしまい、さらに心を閉ざす原因になることもあります。
第4章 回復前に必ず訪れる沈黙と無気力の時間
不登校から回復していく過程では、多くの場合、一時的な沈黙や無気力の時間が訪れます。
これは悪化ではなく、回復に向かう前の準備段階です。
エネルギーが回復し始めると、人は一度立ち止まります。
これまで張り詰めていた緊張が緩み、「何もしない状態」が自然に生まれます。
この時期を「何もしていない」「怠けている」と捉えてしまうと、親はつい介入したくなります。
しかし、ここで無理に動かすと、せっかく回復しかけたエネルギーが再び消耗してしまいます。
沈黙は、次の一歩を踏み出すための助走期間です。
外からは見えなくても、内側では確実に準備が進んでいます。
第5章 動き出す前にエネルギーはどこへ向かうのか
回復のエネルギーは、いきなり学校や社会へ向かうわけではありません。
最初に向かうのは、最も安心できる場所です。
多くの場合、それは家庭であり、親との関係性です。
家庭の中で否定されない、急かされない、評価されないという安心感があると、子どもは少しずつ外の世界に目を向けられるようになります。
逆に、家庭の中に常に緊張があると、回復のエネルギーは防御に使われてしまいます。
その結果、「動かない状態」が長引くこともあります。
第6章 この時期に親がしていいこと・してはいけないこと

この時期に親ができる最も重要なことは、「変えようとしないこと」です。
子どもを動かすことではなく、安心できる環境を守ること。
将来の話、進路の話、他人との比較は、親にとっては現実的な心配から出るものですが、子どもには負担になります。
今を否定されていると感じるからです。
一方で、日常の何気ない会話や、学校と関係のない話題は、子どもの心を少しずつ外へ向かわせます。
支援とは、特別なことをすることではなく、安心を壊さないことなのです。
第7章 「何もしない時間」を否定しなかった家庭の変化
「何もしない時間」を否定しなかった家庭では、徐々に空気が変わっていきます。
張り詰めていた緊張が緩み、会話が少しずつ戻ってくることもあります。
大きな変化ではなくても、「今日は少し表情が柔らかい」「自分から話しかけてきた」
そうした小さな変化が積み重なっていきます。
親が不安を抱えながらも信じる姿勢を保てたとき、子どもは初めて自分のタイミングで動き出すことができます。
第8章 見えない回復を信じるという選択
不登校の回復は、数値や成果で測れるものではありません。
だからこそ、親には「見えない回復を信じる」という選択が求められます。
止まっているように見える時間も、確実に意味を持っています。
この時間をどう捉えるかが、その後の親子関係、そして子どもの自己肯定感に大きく影響します。
不登校は終わらせるものではなく、人生の途中で通過していく時間です。
この経験をどう支えるかが、子どもが再び外とつながる力になります。







