
引きこもっている10代の子どもを前にすると、親として「どう関わればいいのか」「何をすれば回復につながるのか」と悩む方は多いでしょう。
しかし、最初に意識すべきは“外に出すこと”ではありません。
まずは、家の中を「安心できる居場所」にしてあげることが何より大切です。
外の世界とつながる前に、家の中で心を休められる状態をつくる。
この「家庭での安心感」が、次の一歩を踏み出す土台になります。
ここでは、今日からできる「家庭内での安心感づくり」の具体的なコツを紹介します。
1. 無理に話しかけない「静かな見守り」が心を守る
親としては、何とかして話をしたい、状況を知りたい、改善のきっかけを作りたいと思うものです。
しかし、子どもが引きこもっている状態では、親の声そのものがプレッシャーに感じられることもあります。
それは親子関係が悪いという意味ではなく、心が疲れていて「誰とも関わりたくない」モードになっているからです。
この時期に必要なのは、“沈黙を恐れない見守り”です。
■ 効果的な声かけの例
- 「おはよう」「おやすみ」などの短い挨拶だけにする
- ドア越しに「ごはん、ここに置いておくね」と伝える
- 返事がなくても、気にしない
たったそれだけでも、子どもは「自分の存在を否定されていない」と感じます。
反応がなくても、心の中では「ありがとう」「気づいてくれてる」と感じていることも少なくありません。
話しかけすぎず、離れすぎない。
この“静かな距離感”が、最初の安心感を育てます。
2. 否定しない・比較しない言葉が「心の安全地帯」をつくる
10代の子どもたちは、周囲との比較にとても敏感です。
「同年代はもう高校に行ってる」「みんな進学してるのに」――そんな言葉は、子どもの心に「自分はダメなんだ」という自己否定を植えつけてしまいます。
安心感を生み出すためには、評価や指導よりも“受け入れの言葉”が必要です。
■ 安心を与える言葉の例
- 「焦らなくていいよ」
- 「あなたのペースで大丈夫」
- 「今日は起きてきてくれて嬉しい」
- 「生きていてくれてありがとう」
このような言葉をかけられると、子どもは少しずつ「自分はここにいていいんだ」と思えるようになります。
言葉のトーンも大切です。優しく、穏やかに、ゆっくりと。
また、親自身も「つい言ってしまう一言」を意識してみましょう。
「何もしないでどうするの」「また昼夜逆転?」といった言葉は、悪気がなくても子どもに強いプレッシャーになります。
代わりに、「今日はゆっくりできたね」「ちゃんと食べられてよかったね」といった、“できたこと”を肯定する声かけを増やすだけでも、家庭の空気は大きく変わります。
3. 食事や生活リズムを「合わせすぎない・離れすぎない」
引きこもりの子どもは、生活のリズムが崩れていることが多いです。
夜中に起きて昼に寝る、食事をとらない、部屋から出てこない…。
そんな状況に親が焦るのは自然なことですが、無理に「一緒に食べよう」「早く起きなさい」と合わせさせようとすると、かえって心を閉ざしてしまうことがあります。
大事なのは、子どものペースを尊重しながら、“いつでも受け入れられる環境”を用意しておくことです。
■ 食事を通じた関わりの工夫
- 温め直せる食事を置いておく
- ドアの前に飲み物をそっと置く
- 一緒に食べられた日は、「ありがとう」「うれしいね」と伝える
こうした日常の中の小さな積み重ねが、「この家は安全だ」「自分は大切にされている」と感じさせます。
また、食事を通して会話ができなくても大丈夫です。
一緒にテレビを見たり、同じ空間にいるだけでも「つながり」が生まれます。
その時間を、焦らず味わうことが安心感につながります。
4. 家の中の「空気」を整えることで、心の回復を支える
子どもが部屋にこもっていても、家庭全体の雰囲気は必ず伝わります。
親がイライラしていたり、夫婦喧嘩が多かったり、家の中が常にピリピリしていると、子どもは安心できません。
逆に、家が静かで落ち着いていると、それだけで「安全な場所」と感じられます。
■ 家の空気を穏やかに保つポイント
- 大きな声や物音を控える
- 家族間の会話は穏やかに
- 怒りや焦りを本人の前で表に出さない
- 季節の花や明るい音楽を取り入れてみる
また、親自身が心の余裕を持つことも大切です。
完璧に対応しようとせず、「今日はこれでよかった」と思えるようにしましょう。
親の心が落ち着くと、自然と家庭全体が柔らかくなります。
子どもはその空気を敏感に感じ取り、「この家にいていい」と思えるようになります。
5. 小さな「関心」を示し続けることで、心の扉が開く
たとえ話をしなくても、親が“関心を持ち続けている”ことは、子どもにとって大きな支えになります。
ただし、「どうしてるの?」「いつ外に出るの?」などの詮索ではなく、あたたかい見守りの関心が大切です。
■ さりげない関心の示し方
- 好きな食べ物や飲み物を覚えておく
- 好きなアニメやゲームの話題を軽く口にする
- 「寒くなってきたね」「風邪ひかないようにね」と季節の声かけをする
こうした些細な行動でも、子どもは「自分をちゃんと見てくれている」と感じます。
言葉を交わさなくても、「あなたを気にかけているよ」というサインを出し続けることが、信頼関係の土台になります。
また、関心を持ち続けるためには、親自身が「諦めない気持ち」を持つことも大切です。
結果を急がず、反応がなくても続ける。
それが、長い支援の中で最も大きな力になります。
6. 親が「安心して見守る」ために必要なこと
子どもを支えるためには、親の心の安定も欠かせません。
毎日気を張っていると、心が疲れてしまい、余裕のない対応になりがちです。
「なんでこんなに頑張ってるのに伝わらないんだろう」と、無力感を覚える方も多いでしょう。
そんなときは、親自身もサポートを受けていいのです。
自治体の相談窓口や、同じ悩みを持つ親の集まり(ピアサポート)、カウンセリングなどを活用してみてください。
話すことで気持ちが整理され、子どもに向き合う余裕が生まれます。
家庭内の安心感は、親の「安心」から始まります。
親が笑顔でいられる時間を少しずつ増やすことも、立派な支援の一部です。
まとめ:焦らず、「家」を安心のベースにする
引きこもりの子どもにとって、家庭は「最後の居場所」であり、「再出発の場所」でもあります。
外に出る前に、まず家で心が休まること。
それが、次の一歩を踏み出すための最も確かな準備になります。
焦らず、比べず、静かに見守る。
たとえ進展が見えなくても、「安心できる時間」が積み重なれば、心は必ず動き出します。
そして、その最初の一歩は――
「今日もここにいてくれてありがとう」
という、親の一言から始まります。



